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クリムゾンダーク 第3巻



クリムゾンダーク

第3巻


著者

ゴールドを集める者




ペラディウスは宿屋「三日月亭」の窓の外を見て、眼下の客が市場の露店を通り抜けていく姿を見ていた。ノルドの肉屋は彼の視線に気づき、手を振ってあいさつすると商売に戻った。


後ろのテーブルでは、エルワンとエドワードが買い手とタイルと骨で遊ぶカジートの古いゲームに興じていた。ルールをろくに分かっていないのだから、愚かな賭けだ。


ゴールドがテーブルのカジート側に流れ込んで行くのを見ながら、ペラディウスはシロディールにいる友人のことを考えた。彼らのところにまで運を回してくれるよう、ゼニタールに祈った。


「カジートには質問したいことがある」と言いながら、彼は賭け金を追加した。「お前がさばきたいという品だが、この間、宮殿で起きた盗難事件に関わってるか?」


「カジートに質問を許さない」とエルワンが声を荒げた。「エルワンは彼の舌を引っこ抜く」


「無礼はお許し願おう」と猫は弁解した。「だが屋台ではクランマザーの財宝強奪事件の噂でもちきりだ」


「おい、勘弁してやれよ」とエドワードが軽口を叩く。「正体を隠したいなら、クランマザーの個人的な衣装を変装に使うな」


エルワンは兄にふくれっ面をしてみせた。うまい反撃ができなかった自分に腹を立てているのだ。一方カジートはタイルを見て、指輪をいじった。やけに人目を引く仕草だった。


「そうだ。しかし絹のせいではなく、その剣でバレてしまったのだ」とカジートは言って、またも圧倒的な手札を披露した。「普通の剣に優雅な鞘はついてない」


「武器を捨てて爪を伸ばしたほうがよさそうだ」とエドワードはため息をついた。猫は爪を伸ばしてまたしても賭け金をかき集めている。「そうしたら運が回ってくるかも」


「そういう危険を冒したいなら勝手にするがいいさ」とペラディウスが口をはさむ。「だが戦いになったら、帝国の鋼鉄を握っているほうが心強い」


「そりゃ、お前はそうだろうとも!」エドワードが言い返す。「だが、私が魔術師になる運命になかったとどうして分かるんだ?」


かつてペラディウスもエドワードについて同じことを不思議に思ったことがあった。一見すると盗賊というよりは血気盛んな貴族のように見える。だが微笑みと魅力の裏にあるのは狡猾で打算的な機知だった。ペラディウスがいくらがんばったところで、この稼業でエドワードにかなうはずないと言う者もいる。最高の悪党とは短剣の刃で敵を切るのではなく、頭の鋭さで切るものだからだ。


「ともかく、カジートはこれほど勇敢な盗賊に会えて光栄だ。こんなことに挑めるよそ者なんて滅多にいない。後が怖くてたまらないからな」


「どういう意味だ?」とタイルを調べながら、エドワードが応じる。


「クランマザーは自治領と同盟しているからだ。彼らは何一つ見逃さないし、その罰は悲鳴を聞く耳を持つ者に知れ渡っている」


「で、お前はどう思ってるの、毛玉野郎?」エルワンが口をはさんだ。その視線はカジートに注がれている。「お前は自治領の支持者なの? しゃれたレースに身を包んだアランネルヤ夫人の絵を家に飾ってるの?」


「カジートは政治に興味ない」と彼は言い、賭け金を吊り上げた。「この話題を出したことをお詫びする」


「ああ、妹のことは気にしないでくれ。シェオゴラスに触れられただけだ」とエドワードが答え、コールした。「例えば私は充実した政治談議は大好きだ。互いを理解するための土台を見つけることができるからな。結局のところ、そもそもどうして人々が紛争を始めると思う?」


「カジートが思うに双方が違いに折り合いがつけられないからだ」


「そう思うよな。タロスを人と呼ぶ連中がいて、神と呼ぶ連中もいる。そしていつの間にか、そいつらが殺し合いを始めてるんだ。だが女の愛のために血を見ることも、地図の上の数インチのために戦争になったのも見たことがある。


実のところ、人は違っているから戦うんじゃない。戦うのは動機がまったく同じだからだ。それは帝国の者とサルモールでも、クランマザーと盗賊でも変わらない」


「では一体、何がお前とクランマザーを結びつける? お前たちに共通する動機とはなんだ?」


「お前を動かしているものと同じさ」エドワードは微笑み、自分のタイルをテーブルに並べた。


「欲だ」


手札は確かに強かったが、カジートの注意を釘付けにしたのはエドワードがその横に置いたメモだった。彼は即座にそれが何であるか気づいた。それは今朝、彼がしたためた手紙だった。彼らをクランマザーに売って、代わりに砂糖とゴールドをたんまりせしめるつもりだったのだ。


狼狽して、彼は武器に手を伸ばしたが、手遅れだった。エルワンがすでに武器を抜いていた。


「どうってことない」カジート商人は言った。「この手紙はクランマザーあてだ。だが衛兵に宛てたものはすでに」


エドワードが口をはさむ前に、エルワンがカジートの喉を切り裂いた。


血が彼の絹の衣服に飛び散った時、市場で悲鳴が上がった。サルモール司法高官が衛兵2人を脇に従え、ノルドの肉屋を屋台から引きずり出し、タロス崇拝の容疑をかけていた。


司法高官は肉屋のチュニックを引き裂いたが、マーラのアミュレットしか見つからなかった。肉屋は歯を見せて笑い、彼女に付き合っている相手がいるのか尋ねた。司法高官は嫌悪の表情で肉屋を屋台に投げ飛ばしてから、パトロールに戻った。


ペラディウスは窓を閉じた。今日の小競り合いは奴らの勝ちかもしれないが、戦争の勝敗はまた別の話だ。今は先の長い旅が彼らを待っていたし、処分すべき死体もあった。



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